「生物と無生物のあいだ」

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

プロローグにあった文章に惹かれて何気なく購入した本書。
帯にあった「各メディア絶賛の嵐。必読のベストセラー。
読み始めたら止まらない極上の科学ミステリー」
というコピーに若干疑問を持ちながらも読み始める。


確かに絶賛されるだけのことはある。
非常に面白い内容だった。


印象に残った箇所を引用してみる。

つまり私たち生命体の身体はプラモデルのような静的なパーツから成り立っている分子機械ではなく、パーツ自体のダイナミックな流れの中に成り立っている。

それは、すべての秩序ある現象は、膨大な数の原子(あるいは原子からなる分子)が、一緒になって行動する場合にはじめて、その「平均」的なふるまいとして顕在化するからである。原子の「平均」的なふるまいは、統計学的な法則に従う。そしてその法則の精度は、関係する原子の数が増せば増すほど増大する。
ランダムの中から秩序が立ち上がるというのは、実にこのようにして、集合の中である一定の傾向を示す原子の平均的な頻度として起こることなのである。

生命とは要素が集合してできた構成物ではなく、要素の流れがもたらすところの効果なのである。

よく私たちはしばしば知人と久闊を叙するとき、「お変わりありませんね」などと挨拶を交わすが、半年、あるいは1年ほど会わずにいれば、分子のレベルでは我々はすっかり入れ替わっていて、お変わりありまくりなのである。かつてあなたの一部であった原子や分子はもうすでにあなたの内部には存在しない。

私たちは遺伝子をひとつ失ったマウスに何事も起こらなかったことに落胆するのではなく、何事も起こらなかったことに驚愕すべきなのである。動的な平衡がもつ、やわらかな適応力となめらかな復元力の大きさにこそ感嘆すべきなのだ。
結局、私たちが明らかにできたことは、生命を機械的に、操作的に扱うことの不可能性だったのである。


生命のある一部の働きに必要だと思われていた物質を人為的に取り除いた
ノックアウトマウスを用意し、その物質の働きを観察しようと試みる。
しかし、その物質がなくても、生命はその物質とは別の何かでその働きを
補う何らかの手段を確立するという驚愕の事実。
生命の内部では、多少困難な状況でも「うまいことなんとかする」能力を
もっている。これを「動的な平衡」というらしい。
人間は実生活で「うまいこと」やりくりして生きている。
その内部でも、小さな世界で「うまいこと」やりくりが行われている。


この「うまいこと」やる仕組みはやはり適者生存の法則に従って、
永い時間をかけて作られたものなのだろうか。
それともデザイナーがどこかにいるのだろうか!?


ウィルス、DNA、らせん構造、分子などが登場する難しい概念も
非常に分かりやすく説明されており、文章もうまい。
(後半部ではやや難解な箇所もあったが)
本書のプロローグを読んで惹かれるものがあれば、
楽しめる内容だと思う。オススメです。