ノウトカソウ

脳と仮想

脳と仮想

脳と仮想 (新潮文庫)

脳と仮想 (新潮文庫)

仮想と現実。
ひとの内面に浮かび上がってくるものはどちらも同じ。

脳という物質に備わった心。
その心と現実や他者との間には、
物質として物理的に隔たれた存在であり
現実や他者との断絶、絶対的な溝がある。
自分の内面に映し出された仮想で、
現実や他者の心を慮る。
それでも交わろう、寄り添うとする心の働き。
そんな心の儚さ。切実さ。
「二十億光年の孤独」どころではない孤独な心。


そんなもう一つの切実な現実において、
表現者の様々な行為は、
彼らが見ている感じている仮想の存在を表そうとする心の動きなのかもしれない。
表現者は、その仮想への共感や評価を得るためではなく、
彼らの内面にある衝動、あたかも内面にいる何者かによる強制、強迫に
従っているだけなのかもしれない。
そうして表現されたものに対峙する時、
鑑賞者はその内面に同じ仮想を映し出そうとし、
また、鑑賞することによって映し出された仮想から
何かを感じるのではないか。


共感したり同意したり
同じ仮想を同じものとして認識する、
それはとてもとても奇跡的なことなのかもしれない。
物事が分からない、他者の心が分からない、
それは至極当然のことなのかもしれない。
そんな奇跡的なバランスで人や現実は成り立っているのかもしれない。

この本から、
表現手法は問わず表現されたものへ接する時の寄り添い方や、
断絶して存在する心の切実さ、儚さ
そういったものを考えた。
日本語を読める人には是非読んでもらいたい本の1つ。
そしてこの本から浮かび上がってくる仮想はひとそれぞれ。